日本では片頭痛の有病率が約8.4%と報告され、糖尿病患者数に匹敵する規模です。それにもかかわらず、医療機関を受診している人は3割程度にとどまると言われます。「たかが頭痛」という認識が、適切な治療への入り口を狭めているのが現状です。
頭痛には大きく分けて三つのタイプがあります。
- 緊張型頭痛——頭全体が締め付けられるような鈍い痛み。デスクワークやスマホの使い過ぎによる首・肩のこりと関係が深い
- 片頭痛——こめかみあたりがズキズキと脈打つように痛み、光や音がつらく、吐き気を伴うこともある。女性に多く、20〜40代がピーク
- 群発頭痛——片方の目の奥がえぐられるような激痛が、数週間から数か月にわたって毎日のように繰り返す
それぞれ原因も対処法も異なるため、「頭痛だからこれ」とひとくくりに考えるのは危険です。まずは自分の痛みのパターンを記録することから始めましょう。
特に片頭痛は、三叉神経とCGRPという神経ペプチドが関わる神経疾患として理解が進んでいます。単なる「血管の拡張」ではなく、脳の神経ネットワークの過敏性が背景にあるため、市販の鎮痛薬では十分にコントロールできないケースも多いのです。
市販薬に頼りすぎるリスク——薬物乱用頭痛の罠
頭痛のたびに市販薬を飲んでいる人は注意が必要です。痛み止めを月に10日以上使っていると、薬が切れたときに痛みがぶり返す「薬物乱用頭痛」に陥るリスクがあります。これに該当する場合は、専門医による治療方針の見直しが推奨されます。
市販の頭痛薬(イブクイックのような第2類医薬品を含む)は、適切に使えば心強い味方です。ただし、以下のサインに当てはまる場合は、早めに頭痛外来を検討してください。
- ズキズキして吐き気がある、光や音がつらい
- 月に2回以上頭痛があり、予定を崩すことがある
- 市販薬が効かない、または効く量が増えてきた
- 痛み止めを月10日以上使っている
- 朝起きた時から痛い、首こり・肩こりとセットでつらい
- 天気や気圧、寝不足、ストレスで悪化しやすい
- 生理前後に悪化する
また、突然の激しい痛み、片方の手足のしびれ、言葉が出にくいといった症状を伴う頭痛は「危険な頭痛」の可能性があります。この場合は迷わず救急医療機関を受診してください。
頭痛外来で受けられる治療と費用の目安
専門の頭痛外来では、問診や頭痛ダイアリーの確認に加え、必要に応じてCT・MRI検査を行い、脳の病気を除外した上で診断を確定します。そのうえで、発作時の治療薬と予防薬を組み合わせた治療計画を立てます。
| 治療の種類 | 代表的な例 | 費用の目安(3割負担) | こんな人に向く | 特徴・注意点 |
|---|
| 急性期治療薬 | トリプタン系薬剤 | 1回あたり数百円〜 | 発作が起きた時にすぐ効かせたい人 | 発作初期の服用が効果的。月の使用回数に上限がある |
| 経口予防薬 | ナルティークOD錠75mg | 1錠あたり2,923円(薬価)を自己負担割合で | 発作と予防の両方に対応したい人 | 日本初の急性期・予防両対応の経口薬(2025年12月発売) |
| CGRP関連注射薬 | エムガルティ、アジョビ、アイモビーク | 1本あたり12,400〜13,500円程度 | 月に数回以上の発作があり、予防が必要な人 | 4週間に1回の注射。在宅自己注射を選べば通院は年4回程度に |
| ※費用はあくまで目安です。処方日数や自己負担割合、各医療機関の診療体制によって異なります。 | | | | |
| 新薬のナルティークは、これまで別々に使う必要があった急性期治療と予防治療の両方に使える日本初の経口薬として注目されています。ただし発売から一定期間は1回の処方で14日分までという制限があるため、主治医との相談が欠かせません。 | | | | |
天気痛・気圧の変化に悩む人へ
日本では「天気が悪くなると頭痛がする」という人が少なくありません。気圧の変化が内耳の感覚器官に影響し、片頭痛のトリガーになることが知られています。特に梅雨時や台風シーズン、季節の変わり目は頭痛外来の受診が増える傾向があります。
対策としては、以下のような方法があります。
- 頭痛ダイアリー(日本頭痛学会推奨のアプリや紙の記録)で天気と痛みの関係を可視化する
- 気圧変化が予想される日は、無理な予定を入れず睡眠を確保する
- 首・肩の血行を保つため、軽いストレッチや温めを習慣にする
- 市販薬を飲むタイミングを早めにするのではなく、医師と予防薬の検討をする
頭痛外来の選び方と受診の流れ
頭痛外来を探す際のポイントは、**「頭痛専門医の在籍」と「検査体制」**です。脳神経内科や脳神経外科に併設された頭痛外来なら、当日のCT・MRI検査に対応していることが多いため、脳の病気の心配も一度に解消できます。
受診の流れはおおむね次の通りです。
- 頭痛の頻度、痛みの性質、誘因、これまでの治療歴を詳しく問診される
- 必要に応じてCT・MRI検査を実施
- 国際的な診断基準に沿って片頭痛かどうかを診断
- 発作時治療薬と予防治療の選択肢を説明され、処方
仕事や家事で通院が難しい人には、夜間・土日診療を行っているクリニックやオンライン診療を導入している医療機関もあります。症状が安定した後の定期処方はオンラインで完結できるケースが増えています。
まずは一週間、自分の頭痛を記録してみる
頭痛治療の第一歩は、自分の痛みを知ることです。痛みの場所、強さ、持続時間、一緒に起きた症状、その日の天気や睡眠時間——これを一週間記録するだけで、医師との診察はずっとスムーズになります。
市販薬に頼って「なんとか出勤している」状態は、医学的に見ればパフォーマンスが大きく落ちた状態です。痛みを我慢することは美徳ではありません。月に数回の頭痛で生活に支障を感じているなら、頭痛外来への相談を検討してみてください。適切な治療を知ることで、頭痛と付き合いながらも、充実した日々を取り戻すことは十分に可能です。