日本の頭痛診療ガイドラインによれば、片頭痛の有病率は約8.4%とされており、男性より女性に約3.6倍多く見られる。しかし、問題は有病率そのものより「受診率の低さ」にある。調査によれば、片頭痛に悩む人の約7割が医師に相談したことがなく、半数以上が市販薬だけでやり過ごしているという実態がある。
市販薬だけで対処し続けることには思わぬ落とし穴がある。鎮痛薬を月に15日以上、トリプタン系の薬を月に10日以上使っていると、薬そのものが頭痛を慢性化させる「薬物乱用頭痛(MOH)」に移行しやすい。飲む量が増えるほど痛みが悪化するという悪循環に陥るのだ。
さらに、頭痛には「危険なサイン」も存在する。今まで経験したことのない突然の激しい頭痛、手足のしびれや言語障害を伴う頭痛、発熱や首の硬さを伴う頭痛は、くも膜下出血や髄膜炎など緊急性の高い病気の可能性がある。こうした症状がある場合は、迷わず医療機関を受診してほしい。
頭痛のタイプを知ることが治療の第一歩
頭痛は大きく分けて、原因となる病変がない「一次性頭痛」と、何らかの病気が原因の「二次性頭痛」に分類される。一次性頭痛には主に次の3つがある。
片頭痛はズキズキと脈打つような痛みが特徴で、動くと悪化し、吐き気や光・音への過敏を伴う。痛みの前に視界がキラキラする「閃輝暗点」と呼ばれる前兆が現れることもある。
緊張型頭痛は頭全体が締め付けられるような鈍い痛みで、デスクワークやスマートフォンの長時間使用で悪化する。吐き気はほとんどなく、動いても痛みは強くならないのが片頭痛との違いだ。
群発頭痛は目の奥をえぐられるような激痛が1〜3時間続き、一定期間ほぼ毎日同じ時間に出現する。男性に多く、鎮痛薬が効きにくい特徴があるため、専門的な治療が必要だ。
これらは治療法がまったく異なるため、自己判断で市販薬に頼り続けるより、正確な診断を受けることが何より重要になる。
変わりゆく日本の頭痛治療——新薬と治療の選択肢
近年、日本の頭痛治療は大きく進歩している。従来は「痛いときに飲む薬(急性期治療)」と「発作を予防する薬(予防治療)」を別々に使うのが一般的だった。しかし2025年12月、発作時の治療と予防の両方に使える日本初の経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠(一般名:リメゲパント)」が発売され、治療の選択肢が広がった。
CGRPとは片頭痛の発症に深く関わる神経伝達物質で、三叉神経が刺激を受けると大量に放出され、血管を拡張させて炎症を引き起こす。ナルティークはこのCGRPの働きを抑えることで、発作を軽くしたり、起こりにくくしたりする。臨床試験では、発作予防として隔日投与した場合、月間片頭痛日数が平均4日から約2.9日に減少したと報告されている。トリプタン系の薬と異なり血管を収縮させる作用がないため、心臓や血管への負担が少ないのも特徴だ。
一方で、従来からある選択肢も健在だ。トリプタン系薬剤は発作時に使う急性期治療の中心で、CGRPを標的とした注射薬による予防療法も広がっている。さらに、ボトックス治療や漢方薬、鍼灸など、症状や体質に応じて組み合わせることも可能だ。
頭痛外来と市販薬——使い分けのポイント
| 項目 | 頭痛外来(医療機関) | 市販の鎮痛薬 |
|---|
| 適している人 | 月に2回以上頭痛がある、市販薬が効かない、吐き気を伴う | 月に数回程度で、軽度の緊張型頭痛 |
| 主な治療 | トリプタン系薬、CGRP関連薬、予防薬の処方 | NSAIDs(イブプロフェンなど)中心 |
| 費用 | 保険診療のため3割負担で受診可能 | 1箱数百円〜千円程度 |
| メリット | 正確な診断、根本的な治療、薬物乱用の防止 | 手軽に購入できる、即時対応 |
| デメリット | 予約が必要な場合がある | 効かない場合がある、使いすぎで悪化のリスク |
| 頭痛外来では、脳神経内科や脳神経外科、あるいは「頭痛専門外来」を掲げるクリニックが対応する。診断は問診が中心で、必要に応じてMRIやCTなどの画像検査が行われる。危険な頭痛を除外したうえで、タイプに合わせた治療薬が処方されるため、市販薬との大きな違いは「原因にアプローチする」という点にある。 | | |
天気痛と気圧——日本人に多い悩みへの対策
日本では「雨の日に頭痛がする」「台風が近づくと調子が悪い」という人が少なくない。気圧の変化が内耳のセンサーに影響し、自律神経のバランスを崩すことで頭痛やめまい、倦怠感を引き起こす現象は「天気痛」と呼ばれ、近年注目を集めている。日本気象協会も気圧の変化と体調不良の関係を注意報レベルで発信するようになった。
天気痛への対策としては、耳のマッサージや耳回し、首や肩のストレッチが効果的とされる。38〜40度のぬるめのお湯に首まで10〜15分つかる入浴も、気圧差や寒暖差による症状の緩和に役立つ。規則正しい睡眠と食事で自律神経を整えることが、天気痛の予防には欠かせない。
気圧の変化で頭痛が起きやすい人も、頭痛外来で相談すれば、天気痛に効果的な漢方薬や、発作時に使う頓服薬を処方してもらうことができる。気象予報をチェックして、雨の日が近づいたら早めに対策する習慣もおすすめだ。
頭痛と上手につき合うための行動ガイド
まず、頭痛ダイアリーをつけることから始めよう。いつ、どのくらいの強さで、どんなときに頭痛が起きたかを記録すると、診察の際に医師へ正確に伝えられる。市販薬の使用頻度も把握でき、薬物乱用頭痛の予防にもつながる。
次に、以下の項目にひとつでも当てはまる場合は、頭痛外来への受診を検討してほしい。
- 月に2回以上頭痛がある、または頭痛で予定を崩すことがある
- 市販薬が効かない、飲む量が増えてきた
- 痛み止めが月に10日以上必要になっている
- 朝起きた時から痛い、首や肩のこりとセットでつらい
- 天気や気圧、寝不足、ストレスで悪化しやすい
- 生理前後に悪化する
受診の際は、かかりつけ医や脳神経内科のあるクリニック、あるいは「頭痛外来」を標榜する医療機関を探すとスムーズだ。多くの頭痛外来では、問診と神経学的診察を行い、必要に応じて画像検査を実施する。初診から適切な治療薬を提案してくれることが多く、我慢してきた期間が長い人ほど、治療開始後の変化を実感しやすい。
頭痛は「病気」であり、治療できる
頭痛を我慢し続けることは、仕事のパフォーマンス低下やQOLの悪化だけでなく、慢性化のリスクを高めることにもなる。「薬を飲んでなんとか動いている」状態は、医学的に見れば本来の力を発揮できていない状態だ。片頭痛は適切な治療でコントロールできる病気である。日本の医療現場には、新しい薬も、経験豊富な専門医も、そして保険診療という心強い制度もある。頭痛で人生の予定をあきらめる日々に、終止符を打つために——まずは一度、専門医の門をたたいてみてほしい。