日本では約4人に1人が慢性頭痛を持っていると言われる。片頭痛の有病率は約8.4%、患者数はおよそ1000万人。これは糖尿病に匹敵する規模だ。ところが、医療機関を受診している片頭痛患者は3割程度にとどまる。「たかが頭痛」と我慢する文化が根強い。
頭痛のタイプは大きく分けて三つある。片頭痛(ずきずきと脈打つ、吐き気や光・音に敏感)、緊張型頭痛(頭を締め付けられるような鈍い痛み)、群発頭痛(目をえぐられるような激痛が毎日決まった時間に起こる)。片頭痛は20〜40代の女性に多く、30〜40代女性の有病率は約2割に達するというデータもある。
市販薬に頼りすぎると頭痛が悪化する
市販の鎮痛剤を月に15日以上、3か月以上使い続けると、薬が切れるたびに頭痛が戻る「薬剤の使用過多による頭痛(MOH)」に陥ることがある。脳の痛みを感じる仕組みが過敏になり、薬が効きにくくなる悪循環だ。
大阪府在住の会社員、中村さん(35歳・女性)は5年間、頭痛のたびに市販薬を服用し続けた。気づけばほぼ毎日のように薬を飲んでいたという。「頭痛外来で『薬の飲みすぎが頭痛の原因になっている』と言われたときは衝撃でした。まず薬をやめて、予防薬に切り替えたら、2か月後には頭痛の日が半分以下になりました」
頭痛のタイプに合っていない薬を飲み続けるのも問題だ。市販薬の多くは緊張型頭痛向けの成分が中心で、片頭痛にはトリプタン系などの専用薬が効果的とされる。自己判断で薬を選ぶ前に、自分の頭痛のタイプを知ることが先決だ。
雨の日に頭が重いのは「気象病」の可能性
近年、日本では「気象病」「天気痛」という言葉が広く知られるようになった。国内調査では、雨や曇りの日に何らかの体調不良を感じる人は約7割、そのうち8割以上が頭痛を経験していると報告されている。医学的な正式病名ではないが、気圧の変化を耳の奥の器官が感じ取り、自律神経が乱れて頭痛を誘発すると考えられている。
福岡県在住の主婦、佐藤さん(42歳・女性)は「天気予報で雨マークを見た瞬間から頭が重くなる」と話す。「気圧の変化に敏感な自分を『気のせい』だと思っていましたが、気象病という考え方を知ってから、対策の仕方が変わりました。耳の周りのストレッチと入浴を習慣にしたら、雨の日の頭痛がずいぶん楽になりました」
気象病対策は特別なことをする必要はない。首や肩のこりをほぐす、水分をこまめに取る、入浴で体を温める、睡眠をしっかり取る。どれも「ゼロから十まで」ではなく、日々の生活の減点をひとつずつ減らしていくイメージで取り組むと続けやすい。
頭痛のタイプ別・対処法の比較
頭痛のタイプや症状に合わせて、市販薬・処方薬・生活習慣の対策を整理してみた。あくまで目安として、自分の症状と照らし合わせてほしい。
| カテゴリ | 代表的な対処法 | 費用の目安 | 向いている人 | メリット | 注意点 |
|---|
| 市販薬 | アセトアミノフェン・イブプロフェン配合の鎮痛薬 | 数百円〜千円台 | 軽度の緊張型頭痛 | 薬局ですぐ買える | 月15日以上の連用は危険 |
| 片頭痛の処方薬(トリプタン系) | 発作時に服用する専用薬 | 保険3割負担で1錠あたり数百円〜千円台 | 片頭痛と診断された人 | 発作に特化して効果が高い | 吐き気があると飲み込みにくい |
| CGRP予防薬(注射) | 月1回の自己注射で頭痛の頻度を減らす | 保険3割負担で1本あたり1万2千円〜1万4千円程度 | 月に何度も発作がある人 | 頻度・強度を大きく減らせる | 効果が個人差大きく、数か月の継続が必要 |
| 経口CGRP薬(ナルティークなど) | 発作時も予防も1錠で対応できる新薬 | 保険3割負担で1錠あたり約900円、予防目的の月額は1万円前後 | 注射が苦手な人・予防薬を内服したい人 | 水なしで溶けるOD錠で吐き気時でも飲める | 医療機関での処方が必要 |
| 漢方薬 | 体質に合わせて選ぶ処方 | 保険適用で月額数千円程度 | 体力低下・冷えなど体質由来の頭痛 | 副作用が比較的少ない | 効果が出るまでに時間がかかる |
| セルフケア | 頭痛ダイアリー・首肩ストレッチ・入浴 | 頭痛ダイアリーアプリは無料のものもある | まず生活習慣から見直したい人 | 自分の誘因(トリガー)が見つかる | 重症時は受診が必要 |
| ※金額は公的保険適用時の一般的な目安であり、処方内容や医療機関によって変動する。最新の薬価は処方を受けた医療機関で確認してほしい。 | | | | | |
頭痛外来を探すなら「日本頭痛学会 頭痛専門医」が頼りになる
頭痛で受診するなら、何科を選ぶべきか。一般的には脳神経内科、脳神経外科、あるいは頭痛外来を掲げるクリニックが対応してくれる。日本頭痛学会が認定する「頭痛専門医」のいる施設なら、診断の精度と治療の選択肢はぐっと広がる。各都道府県に複数の専門施設があり、予約制のところが多いので、受診前にホームページで確認しておきたい。
東京都在住のフリーランス、田中さん(29歳・男性)は群発頭痛の診断を受けるまでに2年かかったという。「最初は歯の痛みだと思って歯科に行き、次に耳鼻科、最後に頭痛専門医にたどり着きました。もっと早く頭痛外来を知っていれば、あんなに苦しまずに済んだのに」と振り返る。群発頭痛は痛みの場所が目の奥やこめかみに集中するため、歯科や眼科を受診してしまうケースが多い。痛みの特徴をきちんと伝えることが、正しい診断への近道だ。
受診の目安として、以下のサインに当てはまる場合は早めに医療機関へ。突然の激しい頭痛、手足のしびれや言葉のもつれを伴う頭痛、発熱や首のこわばりを伴う頭痛、今までにないパターンの頭痛。これらは危険な頭痛の可能性があり、我慢せずに救急を含めた速やかな受診を検討してほしい。
まずは「頭痛ダイアリー」から始めてみる
頭痛を記録すると、自分の誘因(トリガー)が見えてくる。睡眠不足、ストレス、天気の変化、生理の周期、飲み物や食べ物。頭痛のタイプを医師に伝えるときにも、ダイアリーがあると診断がスムーズになる。
始め方は簡単だ。スマートフォンのアプリでも、手帳に書き込むのでもよい。痛みの強さを10段階で記録し、その日の睡眠時間、天気、食事、女性なら生理の有無を併記する。これを2〜3か月続けると、自分の頭痛のパターンが見えてくる。アプリなら記録の継続が楽で、通院時にスマホの画面をそのまま見せられる点も便利だ。
我慢はもうやめにしよう
頭痛は「仕方ない」と我慢する病気ではない。片頭痛はれっきとした神経疾患であり、適切な治療でコントロールできる。近年はCGRP関連の新しい予防薬も登場し、従来の薬が合わなかった人にも選択肢が広がっている。まずは自分の頭痛のタイプを知ること。それだけで、薬選びも生活習慣の見直しも、ずっと具体的になる。
今日できる一歩は、頭痛ダイアリーを1行書くこと。あるいは、近くの頭痛外来を検索することでもよい。あなたの頭痛に合った対処法は、必ず見つかる。