頭痛を我慢してしまう背景には、いくつかの文化的な事情がある。
一つ目は「痛みに強いことが美徳」とされる風潮だ。職場で「頭痛くらいで休むなんて」と言われる環境は、まだ根強く残っている。二つ目は、頭痛が「病気」ではなく「体質」だと思われがちなこと。三つ目は、どの科を受診すればいいのか分からないという迷いだ。脳神経外科、脳神経内科、ペインクリニック、内科——選択肢がありすぎて、結局どこにも行かない。四つ目は、市販薬の過剰使用。月に10日以上、鎮痛薬を飲み続けると「薬物乱用頭痛」という別の頭痛を引き起こすことが、日本頭痛学会の資料でも指摘されている。市販薬が効かなくなって量が増える、という悪循環に陥る前に、専門医の診断を受けることが大切だ。
頭痛には種類がある。まずは正しい診断から
頭痛と一口に言っても、大きく分けて「一次性頭痛」と「二次性頭痛」がある。一次性頭痛は脳や頭部に病気がなく、頭痛そのものが問題となるもの。代表格が片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛だ。二次性頭痛は、くも膜下出血や脳腫瘍、副鼻腔炎など、別の病気のサインとして現れる頭痛で、こちらは緊急性が高い。
「突然、経験したことがないほどの激しい頭痛」「数週間で悪化していく頭痛」「発熱や手足のしびれを伴う頭痛」は危険なサイン。迷わず脳神経外科か脳神経内科を受診してほしい。反対に、数年以上同じような頭痛を繰り返している場合は、慢性頭痛である可能性が高く、適切な治療で改善が期待できる。
片頭痛の診断は、国際頭痛学会の診断基準(ICHD-3)に沿って行われる。ズキズキと脈打つような痛み、吐き気、光や音への過敏、日常動作での悪化——こうした特徴が当てはまるなら、片頭痛の可能性が高い。診断は問診が中心で、必要に応じてMRIなどで脳に異常がないかを確認する。日本頭痛学会のサイトには一般向けの解説も充実しており、受診前に自分の症状を整理するのに役立つ。
進化する片頭痛治療。CGRP関連薬と新しい選択肢
片頭痛の治療は大きく二つに分かれる。発作が起きた時に痛みを抑える「急性期治療」と、発作そのものを起こりにくくする「予防療法」だ。
急性期治療の中心は、NSAIDsやアセトアミノフェン、トリプタン製剤。トリプタンは片頭痛発作に特化した薬で、保険適用で処方される。ただし、心血管疾患がある人には使いにくいという課題があった。
そこで注目されているのが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)に着目した新しい治療薬だ。CGRPは片頭痛の発症に関わる神経伝達物質で、これを標的とする薬が近年相次いで登場している。
| 薬剤名 | 一般名 | 使い方 | 特徴 | 費用の目安(保険3割負担) |
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| エムガルティ | ガルカネズマブ | 月1回皮下注 | 国内初のCGRP関連抗体製剤 | 1回あたり1万円前後 |
| アジョビ | フレマネズマブ | 月1回または3ヶ月1回 | 3ヶ月製剤で通院回数を減らせる | 1回あたり1万〜1.5万円程度 |
| アイモビーグ | エレヌマブ | 月1回皮下注 | CGRP受容体を直接ブロック | 1回あたり1万円前後 |
| レイボー | ラスミジタン | 発作時に内服 | 血管収縮作用がなく心疾患リスクがあっても使いやすい | 1錠300〜600円程度、月数千円 |
| ナルティーク | リメゲパント | 発作時または隔日内服 | 急性期と予防の両方に使える日本初の経口CGRP薬 | 1錠約2900円(処方制限あり) |
| 2025年12月に発売されたナルティークは、これまで別々の薬が必要だった「痛い時に飲む薬」と「予防する薬」を1つの薬でまかなえる点が画期的だ。2026年現在、処方できる医療機関は徐々に増えており、頭痛外来のあるクリニックで相談できる。 | | | | |
| 予防療法の保険適用には条件がある。片頭痛発作が月4日以上ある、既存の予防内服薬で効果が不十分——といった基準を満たす必要があるため、まずは専門医の診断が欠かせない。 | | | | |
地域で違う頭痛外来の選び方
頭痛外来は全国の脳神経外科・脳神経内科クリニックに広がっている。都市部では選択肢が多く、東京なら赤坂、銀座、新宿などに専門クリニックが点在する。大阪では天王寺だい脳神経外科やいわた脳神経外科クリニックが実績豊富で、福岡ではおおはら脳神経クリニックがCGRP関連薬の情報を積極的に発信している。国立病院機構大阪医療センターのように、総合病院に頭痛センターを設置しているケースもある。
クリニックを選ぶポイントは三つ。一つ目は「日本頭痛学会の専門医・認定医がいるか」。二つ目は「CGRP関連薬の処方実績があるか」。三つ目は「アクセスの良さ」だ。特に予防注射製剤は月1回の通院が必要になるため、職場や自宅から通いやすい場所を選ぶと継続しやすい。オンライン診療に対応しているクリニックも増えており、初診の問診だけならオンラインで済ませられる場合もある。
薬だけに頼らない。日常生活でできる頭痛対策
治療の効果を高めるには、生活習慣の見直しも欠かせない。片頭痛の誘因として多いのは、睡眠不足や寝過ぎ、ストレスとその反動、空腹、気圧の変化、生理周期に伴うホルモンバランスの変動だ。
- 睡眠リズムを整える:休日も平日も同じ時間に起床する。寝だめはかえって頭痛を誘発することがある。
- 食事は規則正しく:空腹を避け、カフェインの摂取量を一定に保つ。チョコレートや赤ワインなど、個人の誘因食品を把握しておく。
- 気圧の変化に備える:雨の日前に頭痛が起きやすい「天気痛」は、気象病とも呼ばれ近年注目されている。天気予報アプリで気圧の変化をチェックし、悪化しそうな日は無理な予定を入れない。
- 首・肩のケア:デスクワークによる首こり・肩こりは緊張型頭痛の大きな要因。1時間に一度は立ち上がって首を回すなど、こまめなリセットを心がける。
- 頭痛ダイアリーをつける:発作の日時、強さ、持続時間、その日の天気や食事、睡眠時間を記録する。診察の際に非常に役立つ。日本頭痛学会のサイトからも記録用紙をダウンロードできる。
更年期の女性はエストロゲンの変動で頭痛が悪化しやすい。ホルモン補充療法との関係も含めて、婦人科と頭痛外来の両方で相談するのが望ましい。
行動するためのステップ
頭痛を放置し続けると、痛み止めが効きにくくなるだけでなく、うつや睡眠障害のリスクも高まる。我慢は決して美徳ではない。
まずは「頭痛ダイアリー」を1ヶ月つけてみよう。市販薬の服用回数が月10日を超えているなら、薬物乱用頭痛の可能性がある。早めに医療機関へ。受診先に迷ったら、かかりつけ医に「頭痛外来を紹介してほしい」と伝えるのが確実だ。地域のクリニックは検索サイトで「頭痛外来 〇〇市」と調べれば見つかる。日本頭痛学会のホームページには、専門医のいる医療機関の情報も掲載されている。
片頭痛は、適切な診断と治療で確実にコントロールできる病気だ。2026年現在、治療の選択肢は過去10年で劇的に広がった。「薬を飲んでなんとか出勤している」状態から、「頭痛を忘れて仕事に集中できる日」を増やす——その第一歩は、自分の頭痛のタイプを知ることから始まる。つらい頭痛を抱えたまま、あと何年も過ごす必要はない。